南イタリア、シチリア海峡ペラージェ諸島の小さな小さなリノーサ島の漁師たち。古来そのなりわいは漁であった。しかし、世界が大きく変わるのにしたがって、この離島も例外ではなくなっていた。海に住む魚の状態がかわり、観光という新たな産業に頼るしかなくなってくる。北イタリアの比較的裕福な人々が、夏のヴァカンスに訪れる場所。漁船を観光クルーズ船として利用する住人も出てきている。
しかし、この島はもうひとつ大きな問題を抱えている。それは、アフリカが距離的に近く、ヨーロッパに向かう難民が逃れて来る場所になっているのだった。イタリア政府からはそのことに厳しく対処するための警備組織が強められてもいるのだった。
昔気質の漁師エルネスト(ミンモ•クテイッキオ)とその孫フィリッポ(フィリッポ•プチッロ)はいつものように漁に出ていたのだが、水平線の向こうに何かを発見する。見るとそれはアフリカからの難民の筏だった。漁船を見て何人かの難民は泳いでやってくる。助けてしまうと、法に触れるのだが、警備船が来るまえにエルネストはその数名を漁船に引き上げ救出する。そのなかには妊婦もいたのだった。どんな状態であっても海に投げ出されているものがあれば救出するのが、シーマンシップなのだ。このことが、この小さな島の大きな問題になってくる。法にそむいてもなんとか難民の命を救おうとするエルネスト、そしてラストシーンでのフィリッポの決断は印象的だ。
この物語は、いまの世界が抱えている大きな問題である。そしてこの問題は、その国その地域が地理的にどのような場所にあるか、ということも大きく影響している。地政学的なものである。もちろん国家として対処しなければならないことはある。ある基準を決めなければ、国家間の関係が危うくなることもある。しかし、それぞれ個々の人間が実際に直面することは、目の前にある命の問題である。
思えば我々の住むこの日本も地理的に厳しい場所にある。中国•韓国•台湾•アジア諸国と米国の動向が直接影響する。もし太平洋のまん中だったり、大西洋の方だったりすると、また全く違うことになっていただろう。おまけに地球のプレートが複雑に入り組んでいる地震多発の場所でもある。我々はこの宿命をきちんと受け入れ、ものごとの判断をしていかなければならない。この映画作品を見て、そのようなこともしばし考えた。