Carmine Street Guitars
監督:ロン・マン カナダ2018
ニューヨークのカーマインストリート。ここにギター工房がある。店主のリック・ケリーは全て手作りでテレキャスを作っている。エレキギターの代名詞テレキャス。リックはニューヨークのあちこちから廃材としてでる木材を使う。古いBARのアルコールが染み込んだ木材や、傷だらけのもの、虫に喰われたもの、それらを使い傷などをそのまま活かして作るカスタマイズギターだ。世界のロックシーンを裏で支える職人はじつに謙虚だ。この街場の工房に、さまざまなトップミュージシャンが訪れる。家では騒音問題になるのでここで引かせて欲しい。ギターの調子が悪いので見てくれ。いいテレキャスを探している。そして誰もがリックのギターに惚れ惚れする。
パティ・スミス バンドのギター レニー・ケイ、ボブ・ディラン バンドのチャーリー・セクストン、などなど気楽にやってくる。日常がエキサイティングだとも言えるし、彼らのごく普通の日常だとも言える。リックはいつも穏やかに彼ら彼女らと接する。ギターの古い傷は、人間の顔に刻まれたシワと同じで人生を語っているとポツリと言う。そして、絶滅寸前の木を使った楽器がもう作れないのは、農薬で害虫が強くなりすぎて木がダメになったのだともつぶやく。そのつぶやきが重く深い。この店は彼の母親ドロシーが事務を担当し、弟子の女の子シンディがひとり。カーマイン・ストリートがあるこの街は、いま建物の持ち主が家賃を吊り上げることができる法律がいくつもあるという。それで、古くから店をだしている人が合法的に追い出されるようになった。再開発が進んでいる。そんなこともうかがわせる場面もあった。「隣のビルが売り出されている。昔ジャクソン・ポロックが住んでいたところよ」とシンディが話したり、不動産屋に勤める青年がふらっと入ってきたり。ゆったりと時間が流れる場所。昔ここグリニッジビレッジ地区にはボヘミヤンが集っていた。詩人で活動家ギンズバーグや小説家バロウズ、そしてヒッピー。たくさんのビートニクジェネレーション。静かな感動が心に広がった。