2011 カナダ/フランス
テーマは重い。しかし、なんとも穏やかでゆるやかな時間の流れなのだろう。カナダのケベック州にある小学校の女性担任が、自分のクラスで縊死自殺をする。牛乳当番のシモン(エミリアン•ネロン)は朝早くだれもいない教室に入ろうとし、その姿を見てしまう。
学校は、ひたすらカウンセラーに子供たちをまかせ、事実にふれないようにふれないようにする。そこへ新聞記事を読んだバシール•ラザール(フェラグ)が代用教員として採用して欲しいとやってくる。出身はアルジェリアで今はカナダの永住者であるという。
考えも教育方法も古くさいラザール。しかし、この男は地獄の苦しみを経験していたのだ。こどもたちとのさまざまな葛藤。こどもたちもまたさまざまに苦しんでいる。しかし、雪のケベック州は陰影の強い光がないように、なんとなく落ち着いた陽光であり、そしてむやみに暗くもない。雪がたんたんと舞い落ちるように、物語は静かに流れて行く。
ラザールの心が、ゆるやかにこどもたちに届いて行く。実は、ラザールは永住者ではなく、移民申請をしている最中だった。妻は教師をしていて、その発言がテロリストに狙われアルジェリアで妻子を殺されてしまったのだ。おそらくラザールが教師をする理由は、妻の仕事をたどってみたいという気持ちだったのかもしれない。
ラザールはクラスの親から素性を調べられ、去らなければならなくなってしまう。とくにラストシーンは感動的だ。心に残るラザールの台詞がある。
「教室で自殺するのは暴力だ」「頭からその先生の姿が消えないというのは、愛していたからであり、愛されていたからだ」「最後の授業をさせてくれ、何も言わないでいなくなるのは自殺と同じことだ」
面白い場面があった。鞄を持って帰って行くラザールの背中に紙で作られた魚が貼付けられていた。おそらくこどもたちの誰かが、こっそり貼付けたものだったにちがいない。
「Poisson davril(ポワソンダブリル)」フランスのエイプリルフールの習慣だ。つまり、「嘘つき」ということだろう。