セルジュ•ゲンズブールを追うドキュメンタリー。本名ルシアン•ギンズブルグ、ロシア系ユダヤ人。火のついたタバコを片手に、ステージで歌ったり、恋人とふざけ合ったり。 フィルムの中のゲンズブールは、すべてを煙に巻いているようだ。断片的な言葉が彼の口からこぼれ落ちる。そもそも、そんなに饒舌ではない。なによりもしゃべることが優先されるような、西欧的価値が、そこからは見いだせない。その断片的な言葉が魅力的だ。まるで古い図書館の日の光から見放された暗い片隅に、ひっそりと置かれた革装の本を開いたような言葉。アフォリズム。ゲンズブールのレベルまで行かなければ、理解できない。「どうだ、こここまで来てみろ」と言っているように思える。
おそらく彼ほど、古のパリの空気を感じさせる人物はいないのではないか、と思わせる。いい意味でも悪い意味でも生粋のパリジャンなのだ。気怠い空気が満ちる路地裏の詩人なのだ。魅力的なアンニュイだ。ますます惹きつけられてゆく。
ゲンズブールは、いまなお人気がある。彼のお墓には、紙巻きタバコや花束や真っ赤な
KISSの跡でいっぱいだ。
2012 PARIS14区 モンパルナス墓地 photo S,Hanada