2015年9月5日土曜日

野火

  野火        監督:塚本晋也          2014日本

 塚本晋也らしい作品。でも、「らしい」とはなんだろろうかと聞かれると、スタイルが「スプラッタームービー」的なシーンがあちこちにある。ということになるだろうか。しかし、塚本の作品が、それを材料にして本質的な何かを暴き出しているということは確かである。この作品『野火』は大岡昇平の代表作であることは誰もが知っていることだろうが、「もっと話題にされてもいいのではないか。」そんな思いが塚本の中にあるのではないだろうか。そして、今こそこの作品を作らなければならない、と。
 現実の戦地というのは、大岡昇平の作品にあるように。そして映像化すると、塚本晋也の作品のようにある。しかし、今の人々はそれを知ろうとしない。概念や観念だけが、イデオロギーだけが先行し、いつかきた道をもう一度進もうとしている。生々しい現実があるのだ。だだこの塚本作品のなかには、原作にあるような主人公田村の内面世界をえぐり出すような表現はない。原作は「神」という言葉がたびたび出てくる。そして田村の過酷な内省がある。哲学書のようでもある。塚本は、いったんそれを封印し、現実そのものを提出した。場面場面はじつに原作通りである。
 いまこの作品を映像化したのは、非常に意味のあることだと思う。映画館には、年配の人がたくさん集まっていた。
 田村一等兵:塚本晋也  安田:リリー・フランキー  伍長:中村達也
 永松:森優作      分隊長:山本浩司      妻:中村優子


                   (8月1日 『渋谷ユーロスペース』にて)