2017年10月16日月曜日

愛を綴る女


  『愛を綴る女』           2016年フランス
                    監督ニコール・ガルシア
                    原作『祖母の手帖』ミレーナ・アグス
                    
                    マリオン・コティアール
                    アレックス・ブレンデミュール
                    ルイ・ガレル

 原題『MAL  DE  PIERRES』  邦題がなんとも意訳しすぎの感がある。「石の痛み」と訳すといいのかもしれない。映画ライターの久保玲子が ”石の痛み”という言葉を使っているので、この「石の痛み」という邦題にしたらどうだろうかと思う。
 南仏プロバンスから親子三人がリオンにやってきた。息子がピアノのコンクールに出場するのだ。車中の三人は家庭円満な印象を受ける。ところが、いざ会場に向かう途中に妻のガブリエル(マリオン・コティアール)はタクシーから一人降りてしまう。彼女はこの通りの名前に反応したのだ。走る彼女はのっぴきならない様子だ。そして、あるアパルトメントにたどり着き、そこにある住居者の表札を見つめる。それはアンドレ・ソヴァージュという男性の名前だった。
 物語は過去に遡る。愛に対して情熱的な少女だったガブリエルは、周りから偏見の目で見られていた。母親は、なんとかしなければならないと思い、労働者のジョゼと結婚させる。しかし、ガブリエルは、ジョゼに「愛していない、絶対に愛さない」と告げるのだった。最初から愛のない関係が続く。彼女の病気、療養所で出会った軍人ルイ、チャイコフスキーの「四季6月舟歌」がつづれ織りの糸のように絡み合う。深い谷に下りて行くように、ひたひたと迫る冷気のような感情。この作品はよくある倫理観で観てはならない。人の心のありようを静かに受け止めてこそ、理解できる。ラスト、静かな感動がさざ波のように押し寄せる。成熟したフランスの情の物語だ。
 ガブリエル役のマリオンは横顔に強い意志が表現されて卓偉。デカダンのようなアレックスも、哲人のようなルイもいい。