『父をめぐる旅 異才の日本画家•中村正義の生涯』監督:近藤正典•武重邦夫
昨年練馬区立美術館で『日本画壇の風雲児 中村正義新たなる全貌』展を見た。そのときの感動がまだ残っている。今回、東京都美術館ホールで上映されたドキュメンタリーは、この画家の生きざまを余すところなく映し出しており、あらためて私自身の作家としての姿勢を問われるような感じがした。思えば、画家なる存在は古典的には権力と密接につながっていたことは事実である。ダ•ビンチ、エル•グレコ、フェルメール、などなど貴族や教会とつながりを持たなければ仕事にならない。日本の場合でもそうだ。しかし、近代は画家が権力から離れて、自分の精神を獲得して行く方向に向かう。したがって、そこには貧乏がつきまとう、近代精神を獲得することの代償かもしれない。日展に巣くう権力と戦うこの作家は見事である。正義は言う、「国家権力によって価値がある美術はない」
現代の作家たちはどうであろうか。中村正義は写楽の研究者でもあったが、研究の秘書を務めた女性が言う、ある日友人と出かけて行った中村正義の後ろ姿は、「たえがたく存在しがたい後ろ姿だった。」と。孤独を通り越した、なんとも名状しがたい絶望的なものだったらしい。52歳で反骨の鬼才は生涯を閉じた。