監督若松孝二が急逝した。新宿でタクシーにはねられたことが原因。若松監督といえば、反骨•反権力という言葉が浮かぶ。昔気質の映画人だ。社会派というよりも人間のドロドロした感情を作品化した人だと私は考えている。人間はさまざまな感情を持ち、その感情を持て余したり、他者との感情のなかで、自らが引き裂かれて行くこともある。若松孝二の作品に登場する人物は、みな考えあぐね、どんなに思慮しても解決できない袋小路でうごめいている。人間の業が重低音のように流れているので作品は文学的だ。
わたしが好きな作品は、『エンドレス•ワルツ』(1995)だ。若松作品としては、『実録•連合赤軍あさま山荘への道程』(2008)や、『キャタピラー』(2010)を代表作としてあげる向きも多いが、この人はもとピンク映画の巨匠だった。その感じが『エンドレス•ワルツ』にあると思うのだが、どうだろうか。もちろん、フリーインプロビゼーションのジャズメン安部薫(町田町蔵)と作家鈴木いづみ(広田玲央名)のファンであることが、私の評価基準になっていることもあるだろう。
潤沢な予算でテレビ会社などが作る映画作品などが多くなっているが、若松プロのような存在が日本映画のレベルを支えていると思う。残念だ。