2013年7月13日土曜日

25年目の弦楽四重奏

 監督:ヤーロン•ジルバーマン       2012年 アメリカ

 25年続いた弦楽四重奏団の苦しみと再生を描いたもの。しかし、「苦しみと再生」というと、なにかしら言葉足らずで陳腐なものに思えて来る。たしかに苦しみと再生なのだが、もう少し本質に踏み込んでみるとそこに見えるのは「愛」の概念と質である。
 四重奏なので、演奏家は四人。第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。この四つの楽器の役割はそのままその演奏者の人間的な役割に重ね合わされる。実人生と、芸術が合わせ鏡のようになっている。ここにこの作品の深さがある。わたしたちは、例えばすばらしいカルテットを聴くと、感動し心豊かにな気分になる。でも、やはりそこには生きた人間のさまざまな事情があり、それぞれが心の闇を抱えている。
 この作品は思った以上に素晴らしいものであった。ぜひ、薦めたい一本である。チェロのピーター(クリストファー•ウォーケン)はこの楽団の創設者。その哲学者前とした風貌が魅力的だ。職人的な芸術家第一ヴァイオリンのダニエル(マーク•イヴァニール)は神経質な芸術至上主義であるが、あるきっかけで情熱を押さえきれなくなる。第二ヴァイオリンのロバート(フィリップ•シーモア•ホフマン)はクラシックに限らず、音楽そのものに対する情熱があるが、それを押さえ込むストレスを抱えている。そしてその妻ヴィオラのジュリエット(キャサリン•キーナー)は三人の間で苦しむ。
 芸術家としベートーベンの弦楽四重奏の忠実な再現者として全てを封じ込める。しかし、この四人はまぎれもなく一個の人間存在そのものであり、ステージを下りるとその剥き出しにされた個性が、ぶつかり合う。そして愛とは。エロスからアガペーに昇華されたようなラストは圧巻。