人間失格
監督:蜷川実花 2019 日本
この作品の感想を書くつもりはなかった。それと、特に観たいという欲求もあまりなかったのだが、藤原竜也が坂口安吾を高良健吾が三島由紀夫を演じている予告編を観て、一応文学分野畑であるので確認しようと近場の上映館に行った。
蜷川の写真や映像作品を完全に理解しているわけではなく、どちらかというと感性が合わないと思っていたが、今回においても同じだった。どうしてこんなにも蜷川が注目され、評価を受けているのだろうか。それともそれを理解できない私自身に問題があるのだろうか、なんとも判断できない。写真も映像もどぎつい原色が目を指す。原色どころか、蛍光色と言ってもいいかもしれない。フィジカルに視覚上直接的に網膜に訴えかけてくる。そこに何かしらの実験性や裏切りという策略があるとも思えない。映像的には鈴木清順に近いとも思える。ただ鈴木清順の徹底した策略に支えられた邪悪な感じは私自身には感じられなかった。短い場面が次から次へとカット割りのように差し込んでくる。映像作品として蜷川の独創性があるのだろうか、深層の奥に深まってゆく物語性を追求する作家ではなく、あくまでも映像の表層を表現する作家だと思うので、そこが勝負だろうと思う。坂口安吾の言葉や、バールパンの様子などには興味惹かれるが、太宰という存在そのものに迫ってゆくということが目的ではない。3人の女性たちの深層に迫るというわけでもない。そうであるならば、もっと感情の抑制と激流が交互に紡ぎ出されていいのではないかと思う。太宰治を素材としたアーティストのプロモーションビデオならば映像として理解できる。120分の物語作品としては、私の理解領域から外れてしまう。
まあ、市井の老人の戯言であるのでご容赦いただきたい。