2019年9月7日土曜日

9月の映画狂No.2

  メランコリック

               脚本:監督 田中征爾    2018 日本

 プロデューサー兼主人公鍋岡和彦役:皆川暢二。殺し屋松本晃役:磯崎義知。監督:田中征爾の三人には共通点がある。それぞれ1988年89年の生まれであり、皆川はワーキングホリデーでカナダへ、田中はカリフォルニアの大学、磯崎はロンドンで演劇の修行。前向きの若い世代だ。
 この作品の面白さは、銭湯には夜の顔があるという発想だ。銭湯で人を処刑し、お湯を沸かす窯場で屍体の処理をするというなんとも合理的なことだ。なるほど、すべては銭湯で完結できて、危険性が極めて低い。そしてこれをユーモラスに扱う。ユーモラスに扱うためには余計な説明や、社会性を作品に持ち込まないことだ。もし、この設定で韓国での作品であったならば、真っ向から攻めて行く作品になるだろう。どちらがどうだ、ということではなく、この三人の映像作りの面白さということになるだろう。ただ作品として普遍的なものを追求する方向ではない。ところどころにウイットの利いたところもある。皆川と松本が飲みに行って、こんな話になる。皆川は東大を卒業しているのが、なんで一回も就職したことがなく、フリーターなんだ。と松本が詰め寄る。皆川は、なんで東大出たらいい会社に行っていい生活しなければならないんだ。逆に皆川が松本に詰め寄る。趣味があるのか、楽しいのか。それにたいして松本は言う、なんで楽しくなけりゃいけないんだ。なるほど、本来大学というところは、勉強したくて行くところであって、就職とかに有利になるということは関係ないはずであり、楽しく人生を送るために趣味は必要だというのもステレオタイプの考え方かもしれない。すべての人間が楽しい人生を送っているかどうかは、はなはだ疑わしい。ほとんどの国民は生活のため自分自身を犠牲にして生活しているのかもしれない。こんなことは当たり前といえば当たり前であり、あえて真正面から問われると、鼻白んでしまう。
 皆川に恋人ができたり、松本は謎が多かったり、その場その場の展開が巧妙である。ヤクザに脅されて店主が殺しの片棒を担いでることがすべての始まりであるが、なんだかすべてがあっけらかんとしている。爽快でもある。長編作品最初のチャレンジであるらしいのだが、面白い。映画史になんの貢献もしないが、なんとも面白く優れた作品である。
 銭湯の入り口の場面で、住所が猫実4丁目という文字が見える。千葉県浦安の猫実4丁目にある実際の「松の湯」がロケ地になっている。