2013年2月13日水曜日

BARBARA  邦題『東ベルリンから来た女』


 
  2012/ドイツ 監督・脚本:クリスティアン・ベッツォルト

 
  閑散とした風景が広がる。時々風邪が吹くだけの寂しいところ。そこは海に近い東ドイツの小さな病院。1980年頃の話だろうか、バルバラ(ニーナ・ホス)という外科医が着任してくる。しっかりと結ばれた口元と目は、強い意志を感じることができる。そして絶望的な孤独を醸し出している。彼女はシュタージ(秘密警察)に監視されていた。ベルリンの大病院に勤務していたが、西への出国申請が認められず、地方に飛ばされてきたのだった。新しい勤務地にいるアンドレ(ロナルト・ツェアフェルト)は彼女に興味を持つ。それは医師として何か惹きつけるものを持っていると感じたからなのだろう。「孤立しないほうがいい」と助言するが、バルバラははっきりと「孤立させてもらうわ」と言う。
  バルバラ、アンドレ、シュタージのシュッツ(ライナー・ボック)の三人はそれぞれ心の底に抱えられない何かがある。しかし、けして感情をあらわにしたりはしない。寡黙にいつも何かを考え込んでいる。
  作品の中には音楽などは流れない。また説明的なセリフは皆無だ。ひとつひとつの言葉が重く響いてくる。哲学的といってもいい。バルバラ、アンドレの進んだ道は、きびしい意志の力から出た結論だった。
  静かな余韻が波のように広がる。極めて私好みの作品だ。