2013年2月13日水曜日

Le Premier Homme 邦題『最初の人間』


 ジャン•アメリオ監督  2011 仏/伊/アルジェリア

 アルベール•カミュ(1913〜1960)の未完小説『最初の人間』の映画化。カミュはアルジェリア出身。2013年1月、日本人10人がテロの犠牲になったアルジェリアである。仏領アルジェリアは悲しい歴史を背負っている。いや、これはアルジェリアだけの問題ではなく、全アフリカが置かれた状況なのだろう。カミュは貧しい家に育った。母も叔父もみな文盲である。家庭状況を考えると、とても高教育を受けることはできない存在であった。しかし、カミュの才能を感じた恩師の努力で、奨学金を得て中学に進むことができ、やがてアルジェ大学文学部に進む。
 この物語は、そのカミュの自伝的なものである。フランスで作家として評価され、ノーベル文学賞を受賞した作家は、故郷アルジェリアに住む母のもとに訪れる。大学で講演を頼まれるが、独立派などから激しい批判を受ける。作家は徹底的にテロリズムを否定する。そして対テロの武力もまた否定する。それがなかなか理解されない。作家に対する批判は「曖昧」ということだ。しかし、思うにこの「曖昧」というのは、極めて文学的な思考から導き出されたパロールに他ならない。象徴的な言説、示唆的な言葉。直線的なアンガージュの立場からすれば、まどろっこしくて論理性がないということになるのかもしれない。しかし、世界はもっと複雑であり、文学者の言葉は、そこから何かを読み取ろうとしなければ、見えてこない。無自覚に与えられるものではないからである。作家はフランスとアルジェリアの両方のアイデンティティーに引き裂かれながらも、自分の出自に対して限りない愛念を抱いている。
 作家がカフェで何か書きものをしてるとき、路上で激しい爆発が起きる。車が炎上し、多数の人々が犠牲者になっている。この状況は今も昔も変わらないのだ。なんということだろうか、世界にはこのような国がたくさん存在するのだ。
 作家ジャック•コルムリ(カミュ)のジャック•ガンブランがいい。寡黙な哲人だ。私より2歳年下の俳優だが、このような雰囲気をまとったUn hommeにあこがれる。